おとぎ話

tove's story


その少女が生まれ育ったのは、途方もなく大きな幻獣の見えないヒレの上でした。
下が透けてみえるのを気にしさえしなければ、そこはずいぶん幸せな土地でした。

でも人々は欲張りで、ヒレに線を引きまくり、ここまでよこせと争いました。
そのうち南の方からは、「すべてを支配せよ」という託宣を信じた、独りよがりな人らがやってきました。滑稽で欲張りなおとぎ話は間もなく破られましたが、数え切れない人が死にました。

東の方からは「だれも何も独り占めはしない、許さない」という美しいおとぎ話を語る一団がやってきました。美しい約束はでも結局、醜い嘘でした。彼らはそれまでに見たことがないほど欲張りでした。ずっと隣に張り付いて、涎を垂らして吠えていました。

少女はすっかり病んでしまいました。人や国を信じることができなくなりました。
しかし少女にはわかっていました。人を信じないまま、憎んだまま生きることはできません。人からすべてを奪うような欲、ひとかけらの自由まで奪うような支配を、代わりに憎みました。憎むだけでなく、そうしたものが力を失い、滑稽に見えてくるような、祈りのような絵とお話を、まず自分のために書きました。

そう、これももちろんひとつのおとぎ話。でも、真実を装って自分から壊れていったはじめの二つと違って、少女のお話は少女自身を癒し、ずいぶんとたくさんの人に愛され祝福される、長生きなおとぎ話になりました。

え、少女はどうしたのかって。良くは知らないけれど、見えないヒレのその先のしずくのところに棲んでいるようですよ。自分の作ったおとぎ話のことも忘れかけているかもしれません。
でもそれは幸せなかかわり方。おとぎ話は少女にとっての役目を果たしたのでしょうね。次は、たくさんの別の少女や少年を癒す番。


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